コッホの雪を折る

フラクタル図形コッホ雪片を、繰り返し可能な状態で折れたっぽいので情報を整理・出力しておきます。

形の捉え方と基本構造

今回折るのはコッホ雪片には、限られた繰り返し回数ではありますが池上牛雄氏の作例があります。この作例と池上氏の挑戦の軌跡をよくみてみると、凹部分に近い小さい角がどこから生えてくるのかというのが問題となっています。繰り返し可能な作品を目指すのであれば、おそらくこれを解決することが実現の鍵となるでしょう。

今回(実は10年以上前〜)、形から考えると行き詰まりそうなので、試しにカドの折り出しで形を作ることができないかを考えてみました。ただし、この場合でも同じように、中心に近い部分のカドをどう出すかが問題となります。直線のカドとして考えると、非常に中途半端な位置からカドを折り出す形になります(図1、図2)。

ここで少し考え方を変えてみます。折り紙作品ではカドは途中で曲げられるので、中心に近い部分から直線として折り出すより、外周に近いところから分岐させる方が実現しやすそうです(図3)。

もう少し考えを進めて、それぞれのカドが5方向に分岐して、内側の部分は使わない構造と考えると、小さいカドを自然な階層構造に組み込むことができます(図4)。

実際の形としては、カドではなく星形を折り出すことになります。1/3の大きさの星形を各角に重ねることで、結果的にコッホ雪片を折り出すことができる……はずです(図5)。

さて、この構造なのですが、実は池上氏のフラクタルピラミッドを6方向にしたものと同じような構造となります。さらに言えば、今回は図形の内側部分を作る必要がないため、実現までの難度は「異常に高くはない」ことが予想できます。これで「不可能ではなさそう」ということが見えてきました。それどころか、かなり再現可能性の高い、有望な方法のようです。それにしてもここで別のフラクタル作品とリンクするのは熱い。

基本的な構造

実際に折るための配置を考えてみます(これが数年前〜昨年)。まず各星形のパーツは、フラクタルピラミッドと同様にそれぞれのカドを合わせる配置でよさそうです。領域はとりあえず6角形で行います(マゼンダの六角形)。

次に、隙間を埋めるようにして構造を分けてみます。折紙探偵団マガジン88号で池上氏が提唱しているような階層化構造が成立するので、内側向きに関しては繰り返しが成立しそうです(イエローの台形のような形)。

外側については読みきれないのですが、階層構造は成立しそうだし、長さをみる限りは問題なさそうです。ここから先は現物で検証するのがよいでしょう(シアンのコッホ雪片状の部分)。

2023/12の試作と挑戦

ということで、大まかな構造も決まったので実際に折って試作してみました。まず星形部分の構造は、折りやすさ重視でもとの領域の1/2の大きさになるものを採用しました。最終的には元の用紙の1/4の大きさの完成形となります。細かい問題はあったものの、とりあえずではあるものの折り畳み出来そうというところまで進めることができました。

次に再度整理しながら試作します。3段階の状態で内側部分の折り畳みができました。上記構造図のイエロー部分が一つある段階で、フチの形状を見る限り繰り返しも可能です。外側は不安定ですが、とりあえず星形に削り切ることができました。ということで3段階目完了です。

次の階目に向けて

次の段階を折るために、確認すべき問題は2点。内側の繰り返しに問題がないか、そして外側の折り畳みです。まず内側については、まず間違いなく大丈夫そうです。ただ現物だと、紙の重なりなどの干渉で条件が変わる場合も考えられるので検証が必要でしょう。

また外側については、繰り返し回数が少ないこともあり、パターンが読みきれていません。ただ経験上の勘では「まず間違いなく可能」です。とにかく、この段階ができれば多分いくらでも先に進められそうです。

実際に折る

ということで折ってみました。全紙から切り出した六角形の1/4の形の用紙を使用。それでも最終的にはミリ単位の作業になりました。折り手順は大きい方から小さい方へ。いろいろ手順を考えながら折ってみましたが、凹み部分は一気に折るしかなさそうです。

内側の繰り返しについては予想通り問題なし。厚みとサイズさえ気にしなければ何回でも繰り返し可能です。また外側はとりあえず畳めたものの、残念ながら明確なパターン化はできていません。ただ折れること自体はほぼ間違いなさそうなので、階層パターン化が次……というか最後の課題となります。

感想

完成画像を出したX(旧Twitter)のツイートが、意外にも多くのいいねやPV数などを叩き出しました。フラクタルは折り紙としては超不人気分野なのですが、数学系の方からみると案外面白い試みなのかもしれません。

創作の過程を見直してみると、コッホの雪を追っていたら六角ピラミッドが現れたのが、色々な意味でとても面白いと感じました。伏線……という訳ではなく偶然だとは思うのですが、それでも数少ないフラクタル折り紙作品がリンクするというのは面白く、なにより近い構造の作例があるのは、完成への大きな励みとなりました。

最後に、本文でも散々参照している繰り返しとなりますが、階層的な構造、ピラミッドの作例、そしてそもそも「フラクタルを折る」というコンセプトなど、池上牛雄氏の先行研究がいろいろな意味でベースとなっており、これがあったからこその結果であることを改めてお伝えします。未知の分野への果敢な挑戦に、敬意と謝意を。

資料等

超不人気分野のため、ほぼ池上氏のものしかない。

折紙探偵団マガジン67号:展開図 「コッホの雪」(池上牛雄)

https://origami.jp/magazine/67/

折紙探偵団マガジン74号:ローズアップ「フラクタルを折る-その構造と性質-」(池上牛雄)

https://origami.jp/magazine/74/

折紙探偵団マガジン88号:クローズアップ「新しい無限折りの発見」(池上牛雄)

https://origami.jp/magazine/88/

OrigamiUSA The Fold:Diagrams: Fractal Pyramid(池上牛雄)

https://origamiusa.org/thefold/article/diagrams-fractal-pyramid

OrigamiUSA The Fold:「Fractal Origami for Beginners」(池上牛雄)

https://origamiusa.org/thefold/issue/79


ずれやすい手順の傾向と対策

  • ずれやすい手順というものが存在する。
  • 基本的に創作者は折る技術が高い人が多いので、案外気が付かない。
  • ずれは絶対に起こるものと考え、なるべく影響の少ない手順を採用するとよい。

ということで、思いつく誤差の発生しやすい手順をいくつか挙げてみます。

  • 基準点が少ない手順(正確に折るのが難しい)
  • 角度や幅を2倍にするような手順(誤差が倍になる)
  • 細いフチや浅い角度など、折る部分が少ない場合(単純に難しいし、フチに対して垂直に折るような場合も折りにくい)

これらの手順をなるべく避けるとよいでしょう。特に上記のような手順が続く場合は誤差が大きくなりがちです。

また、当たり前の話ではありますが、この逆のような手順であれば誤差が発生しにくい手順となります。ほぼ自明なものもありますが、一応書き出してみます。

  • 基準点が多い手順(ずれが発生しにくい)
  • 半分に折るような手順、さらにいれば大きな基準点からより細かい基準点を出すような手順(ずれがあっても分散される)
  • 漸近法を取り入れた手順(ずれが小さくなる)

ずれにくい手順は、同時に折りやすい手順であることも多いものです。特に折りの精度が重要な作品の折り図では、意識するとよいでしょう。


具体的な失敗例・改善例として、ヘラクレスオオカブト(『折紙探偵団コンベンション折り図集18』より)を見てみます。

まず手順9では基準が少なく折る部分が細いという、正確に折るのが難しいずれやすい手順です。次に手順11では手順9の基準と反対側、つまりずれやすい側を基準にして折っています。9がずれていると当然11もずれます。

さらには手順12では、幅を倍にして折り筋をつけています。11でずれていた場合、ずれの大きさが倍になります。

……書き出してみると酷い手順ですが、問題は創作者本人は正確に折れていたので(良くも悪くも折れてしまったので)、作図の段階ではずれやすい手順であることに全く気がつかなかったことです。その後、講習等にて問題点が表面化して、なんでずれるのかと手順の見直してやっと認識しました。恐ろしい。

その後、『秀麗な折り紙』に収録された折り図では、手順を再考してずれにくい手順を目指しました。失敗を活かして(?)逆の順番で折り筋をつけています。

まず元の図の12でつけていた折り筋をつけてから、15では半分の幅で折り筋をつけています。14で誤差があっても半分になり影響が出にくくなります。また16では上下の基準が使えるようにしています。

普通、異なる手順を比べてみる機会はあまりないと思いますが、実際にみると、誤差の出やすさ・出にくさがわかりやすいかと思います。機会があるたびに書いていますが、手順はとても大切です。

以上。繰り返しとなりますが、基本的に創作者は折る技術が高い人が多いので、案外気がつかないものです。単純な折りの精度だけでなく、紙の歪みなどでも誤差は発生します。ずれは絶対に起こるものと考え、なるべく影響の少ない手順を採用するとよいでしょう。


暫を折ってみた

外が暑すぎるので、外出は控えて『北條高史折り紙作品集』より暫を折ってみました。

http://www.origamihouse.jp/book/original/hojyo/hojyo.html

用紙は昔伊東屋で買ったロール和紙90cmを使用。ただ細部の余裕や折りやすさを考えると、120cmくらいが適正サイズなのかも。厚みは折り手の技量と好み次第ではあるものの、サイズと合わせて余裕をもった厚さ(薄さ)がよいでしょう。

構造や複雑さの都合上仕方がないとはいえ、綺麗に折るのが難しい手順だと感じました。特に引き出すような手順の後は、カドを揃えるなどの補正作業をまめに行うとよい……というか行いました。

仕上げは個人的な好みで、旧版と混ぜています。それにしても当時は複雑な作品だと感じましたが、今見るとわりと普通に見えるのは、ここ20年くらい創作技術の進化と複雑さのインフレの結果なのでしょうか。まあ私が言うのもなんですが……

https://hojyo.origami.jp/109shibaraku.html

折り図以外だと、折紙探偵団マガジン59号に掲載されている創作記事はできれば読んでおくと良いでしょう。作品や作者の意図の理解は、仕上げに役立つはずです。今ならおりがみはうす店頭の折紙探偵団マガジンバラ売りで入手可能。

https://origami.jp/magazine/59/

あとは上記の記事でも書かれていますが、モデルとなった浅草寺の暫像が参考になります。各パーツを比べてみると、形の意味を理解しやすくなるのではないでしょうか。

ところで日本橋の麒麟像もそうなのだけど、これは一種の聖地なのだろうか。

https://www.google.com/maps/place//@35.7158251,139.7961999,20z


VellumCADとViaCad

折り図を描くときには、Adobe IllustratorやAffinity Designerなどのドローソフトが使われます。では展開図はどうなのでしょうか?

ドローソフトで展開図も描けるのですが、機能や精度等に限界があります。そこで製図等に使われるCadソフトや、最近ならoripaやorihimeなどが便利です。

※「oripa」:https://mitani.cs.tsukuba.ac.jp/oripa/

※「orihime」目黒さんのサイト:http://mt777.html.xdomain.jp/

私の場合は、展開図などを描くときにはViaCadを使っています。

https://www.punchcad.com/punch-viacad-2d

日本語版もないのになぜ? と思われるかもしれませんが、理由は少し長くなり2000年ごろまで遡ります。

展開図はFreeHandで描いていたのですが、スナップ機能や精度等に機能的な限界を感じていました。Cadソフトが便利らしいという事は聞いていたのですが、当時はMacOSで動くまともなCadソフトはそう多くありませんでした。

そのなかで見つけたのが「MacVellum」です。実売価格2万円程度(たしか)とCadソフトとしては比較的安価で、機能的にも十二分のようです。決定的だったのは、試用版をダウンロードしてのテストが非常に良かったということです。試しに複雑な展開図を実際に描いてみると、使い込んだFreeHandより早く描くことができました。

そういうことでしばらくは「MacVellum」を愛用していたのですが、2007年ごろにMacOSのバージョンが上がり、旧OSのソフトが使えなくなりました。開発・販売会社の倒産等によりよくわからない状態になっていたのですが、後継ソフトの一つ「DraftBoard」がファイルの引き継ぎなど良さそうです。というわけで「MacVellum」と比べると少々高めではあったものの(たしか4万円くらい)Cadソフトとしてはそんなものなので「DraftBoard」を導入。

※「vellum」関連の判例。本当にいろいろとあったらしい。

http://www.translan.com/jucc/precedent-2010-03-31.html

そしてさらに数年後、いわゆるIntelMacへの対応のため、再度ソフトウェアの更新が必要になりました。候補はいくつかあったのですが、VellumCad系の「ViaCad」を発見。残念ながら英語版のみとなりますが、2D版は$39とかなり安かった(当時)のでダメ元で導入。細かい操作感の違いや荒い挙動はあるものの、基本的な機能は同じということもあり普通に使えるようになりました。なお言語の違いも同じ理由ですぐに慣れた。

ちなみにVellumCad系のソフトの特徴として、ドラフティングアシスタントという非常に強力なガイド機能があります。大雑把に言えば線の起点や交点等から一時的に水平・垂直……それどころか設定次第では22.5度などのガイドも出せるというような機能なのですが、これが展開図を描く作業と非常に相性がよく、操作感なども含めて展開図を描くためにあるような機能なのです。

上の画像のように、いきなり22.5度を基準とした線が描けるのは強い。グレーの線がドラフティングアシスタントのガイド。実は少々作りの荒いところがあり、たとえば画像では小数点以下の角度は表示されていないのですが、ちゃんと正しい角度でスナップしています。

現在、oripaやorihimeなどの折り紙の展開図を描く専用ソフトなどもあり、2000年代の状況とは違いわざわさCadソフトを使う強い理由はあまりありません。ただ、私個人としては、創作中に構造を整理しながら補助線や円領域などを書き込んだ状態の展開図を描く作業や、そのなかで生まれるアイディアもあること、また折り図用のテンプレート的なものの用意などにも使っているので、当面はViaCadを使おうと考えています。


TVチャンピオン カレンダー決勝の話

2003年のTVチャンピオンで製作した作品の写真が出てきたので、当時の話を少し。

決勝テーマは、折り紙メーカートーヨーさんのカレンダー。優勝作品が採用され、3ヶ月ずつ、4枚分の作品を用意するというものです。単純な発想としてとりあえず四季をテーマにすることを思い浮かべますが、意外性のかけらもなく、なにより題材被りもありそうなので、もう少しひねった案を考えました。

まず思いついたのは、ちょうどライトフライヤー飛行テストより100周年ということで、飛行機の歴史を辿るというようなものです。時代とイメージの違う、ライトフライヤー、飛行船、航空機、スペースシャトルかロケットという感じで4場面にまとめるという感じです。題材としては悪くはないし、うまくできれば見栄えもしそうです。ということで実際にできるかどうか少し考えてみたのですが、ライトフライヤーとか形になるのか?という問題もあり、もう少し別のものも考えてみます。

歴史を辿るというまとめ方は良さそうなので、テーマをずらしてはどうだろうか?ということで考えてみたのが、比較的得意な分野?の生命の歴史です。毎回のことですが、TVチャンピオンでは一定の期間内にある程度以上のクオリティの作品を用意しなければいけないので、ある程度見通しの立てやすい、経験のある題材等を選ぶのは大切です。

とはいえあまりにもそのままでは面白さがないので、最初の四季と組み合わせたらどうなるか……バージェスおせちというバカネタを思いついてしまったので、生命の歴史×季節で決定しました。二つの違う時間軸を重ねて表現するというのは、今回のカレンダーという決勝テーマにも合った内容です。タイトルも「5億7500万分の1年」という、割とそれっぽいものになりました。

次に決めるのはどの生物をどのようにこじつけて折るかということになります。とりあえずバージェス動物のカンブリア紀は確定として、他は雑に古生代中期くらい、中生代、新生代としてみます。つまりバージェス、原始的な魚など、恐竜、絶滅哺乳類です。

最初の1〜3月は、思いつきそのままでバージェスおせち。点数が多いけれど色さえ合わせればどうにかなりそうです。アノマノカリスを海老に見立て(学名の意味も「奇妙なエビ」だし)中心にドンと置き、あとはそれっぽい形の生き物をそれっぽい色と形に創ります。結果的に一見おせちだがよくみるとゲテモノという大変楽しいものが完成しました。

4〜6月、時代的にウミサソリとか考えてはみたけれど、季節とのこじつけが難しいく使いどころがないのでボツとなりました。代わりにこどもの日から連想して、作品の種類が少なくて済みそうなダンクルオステウスのぼりになった。吹き流しのオウムガイが個人的には好きなネタ。

7〜9月、これは悩んだけれど、時間的な問題もあり、すでにある作品をベースにしてバロサウルスのお月見にしました。ジオラマの構造的に背景がないので月をどうするかという問題があったのですが、水面に映すという会心のアイディアで解決。細かいネタですが実は月の模様も恐竜になっています。

最後の10〜12月は、クリスマスをネタにして、わかりやすく派手にマンモス&古代人サンタに決定。折る作品数も少なくて済みそうです。

題材決定で気をつけたのは、なにより4面のイメージが被らないようにということです。レイアウトや使う紙の色など、なるべくわかりやすく変えるようにしています。また、実は使用する紙の傾向も4面で変えています。それぞれホイル紙、洋紙ドライ、洋紙ウェット、和紙をメインに使っています。

当日、実際に折る際には時間との勝負となりました。実際に12時間で4面を埋める作品を折るのは、過去最も時間的にきつい内容です。なんにせよ絶対的な時間が不足しているので、一つ一つの作品を大き目に折って場を埋めるようにします。これは単純に面積だけでなく、高さも出せるので見栄えもするようになります。メインとなる作品を大きめに作ると、良い意味でのケレン味というか、ボリュームがわかりやすくなります。これについては過去の経験が役に立ちました。また、短い時間で折れる小物を多めに用意すると、手間の割に密度が高く見えるようになります。こいのぼりの波・三角錐の木などがわかりやすいでしょうか。メインとなる題材が複雑な作品であれば、解像度の差から主題がわかりやすくなるという効果もあるかもしれません。

今後TVチャンピオンのような企画があるかはわかりませんが、創作側の内容はともかく、制作関連については例えばジオラマ系の展示でも応用できるのではないでしょうか。

関連:TVチャンピオンの話(https://www.folders.jp/uc/2018/495/


折り図tips:重なりは実物と同じ順番で描くとよい

折り図の重なりは、基本的にはなるべく実物と同じ順番で描くことを強くおすすめします。重なりの調整など少し手間に感じる場合もあるかもしれませんが、先の手順や、修正・変更する場合を考えると、実物通りの順番が一番作業しやすい場合が多いです。

実物と違う重なり順の場合、その図では問題なくても、先の手順で苦労する場合もあります。実例として三角に折ってからの中わり折りを見てみます。

重なりの調整は、パーツごとのグループ化や、「前面/背面にペースト」などの機能を活用するとよいでしょう。というか使わないとかなり辛そうです。

https://www.folders.jp/uc/2018/431/

https://www.folders.jp/uc/2018/587/

ちなみに例外として、例えば完成図などの変更が必要ない図であれば、あまり問題にならないケースもあります。特にユニット作品などの場合は実物と合わせようとすると相当な手間がかかるので、完成図等に限れば問題ないように思います。

ということで、「次の図を描く自分のために、正しい順番で重なりを描こう」。


inkscapeの半透明オブジェクト問題の検証

inkscapeで作られたデータは、SVG形式のままでは問題が発生する率が非常に高いため、基本的にPDF経由でIllustratorに読み込みます。この際に、半透明化の機能を使ったオブジェクトが消えてしまう場合があります。

まずはこの問題に対する有志による検証です。他にも発生しやすい問題がまとめられているので、inkscapeで折り図を描く(かつ投稿などをする)のであれば必読です。

https://sites.google.com/site/origamidiagramsstudygroup/guideline/inkscape

inkscapeでは、オブジェクトを半透明にする方法として、RGBA(赤緑青+透明度)のAの値を変更する方法と、不透明度の項目の値を変更する方法があります。このうち、不透明度を使った半透明オブジェクトがPDF読み込みの際に非表示の状態になってしまいます。ちなみにRGBAの方法であれば問題がなさそうですので、もし必要であればこちらを使うべきでしょう。

読み込んだデータを詳しく見てみると、不透明度を使ったオブジェクトは、色のついたオブジェクトに半透明のマスクをかけたような状態になっているようです。このマスク処理が読み込みの際に正確に反映されず、非表示もしくは完全に透明なマスクとして処理されているというのが原因だと考えられます。対してRGBAの方法を使ったデータの場合、オブジェクト自体に半透明の設定がされている状態になります。データの構造がシンプルな分、問題も発生しにくいのでしょう。

RGBA(アルファチャンネル)を使った半透明データをAIで読み込んだ場合の不透明度の状況。

ちなみに、強引な対処方法としては、正確に読み込めないオブジェクトを含むPDFを一旦別のアプリケーション(MacOS標準のプレビュー等)で開き保存し直すと、PDF自体が別エンジンで書き直されるのか読み込み可能な状態になります。ただしデータの構造等はひどい状態になり編集等に大きな支障が出る、また他の問題が発生している可能性もあるので、あくまで最後の手段とすべきでしょう。

そしてここからが新情報。今回の検証のため最新バージョンのinkscape(MacOS版1.2.1)で確認してみたところ、書き出したPDFが不透明度・RGBA共に半透明を維持した状態で読み込めることが分かりました。

PDFの情報を見比べてみると、書き出しに使われているcairoライブラリのバージョンが上がっていました。また、読み込んだデータを見てみると、オブジェクト+半透明マスクという構造自体は変わらないものの、この二つを含むグループに対して不透明度の設定がされていました。恐らく書き出されたPDFデータの構造などが改善されて、読み込みの精度が上がっているようです。

最新版inkscapeで書き出した不透明度を使ったデータをAIで読み込んだ場合。クリッピングで階層が増えていて、グループに対して透明度の設定がされている。

ということで雑にまとめると、

  • inkscapeのバージョンによって発生する問題は変わる。基本的に改善されているのでなるべく最新版を使うとよい。
  • 改善はされたものの、グループ状態の変化等で半透明化が解除されてしまう可能性もあるので、引き続きRGBA側の機能を使う方を奨励。

となります。

最後になりますが大前提として。異なるソフトウェア間でのデータの完全な再現は非常に難しく、発生した問題を発見し一つずつ検証・解決する必要があります。たとえ同じソフトウェアでも、バージョンやWin-Mac間の差でレイアウト等が再現されない場合もあります。精度の高いデータの変換・読み込みには、データを用意する側とそれを読み込む側の、双方の理解と準備・対策が必要になるのです。


サメのエラの話

元ツイートは「光あれ」のパロディなのですが、せっかくなので。

自分の覚えている範囲だと、『おりがみ新世紀』に掲載されているジョン・モントロール氏のサメには、折り筋で表現されたエラがありました。また『Origami Sea Life』のサメでも、段折りでエラの表現がされています。

余談ですが、モントロール氏は、一定の範囲の技術(=折り図にできるもので、折り紙に慣れていないアメリカ人がなんとか折れるかもと思える範囲)で、様々な題材の作品を創作されています。折るべき形や、要素の取捨選択が優れた作家であると言えるかもしれません。

ラブカなどを含めると他にも作例はありそうだし、冗談ではなく「吉澤さんが50年前にやってる」でもおかしくありません。(覚えている限りでは、吉澤章氏のサメの折り図はなかったと思うのですが、折り図になっていないしっかりエラが折り出された作品があっても不思議ではありません。)

ちなみに私がエラを折り出したのは、自作のエイや吉野氏のマンタなどで、エラは割と効果的なのを知っていたのと、歯よりも低コストで実装できそうだったからです。要するに歯を割愛する代わりにつけた。

ヒダを構造に組み込むと難しくなるけれど、外側にカドを出して段折りであればわりと簡単に実装できること、またサメの特等的なパーツであることが知られたので、最近の作品でエラつきが増えたということなのでしょう。


創作における「選択肢と確率」

そもそも創作って何をしているのか?

  • まず「折り紙の創作とは無数の選択肢から最良と思われるものを選び進める作業である」と仮定する。
  • もう一つ、「良い選択肢を見つけられるかは、確率である」と仮定してみると、割といろいろなことが説明できる。
  • 知識や経験は選べる選択肢の広さや質。良い選択肢を選べる確率が上がる。
  • いわゆる「折り紙設計」は、制限を加えて選択肢を選びやすくする方法。
  • 理屈上では、確率は低いものの、いきなり傑作を創作できる可能性もある。
  • 選んだ選択肢が作品となり、作風やセンス・個性になる。
  • 「良い作品を創作するには確率を上げて試行回数を増やせ」。

それぞれ詳しく。

まず「折り紙の創作とは無数の選択肢から最良と思われるものを選び進める作業である」と仮定する。

折り紙の創作とはいったいなにをしているのか? もちろん自分の作りたい形を折り紙で表現するというのが創作なのですが、その時、具体的にどのような作業をしているのかというような話です。いろいろと考えていたのですが、私の場合は、「折り紙の創作とは、無数の選択肢から最良と思われるものを選び進める作業」というのが一番腑に落ちる言葉になりました。たくさんの選択肢から、ある程度先を読みつつ試作し、なるべく良さそうな選択肢を選びながら進める。手詰まりがあれば別の選択肢を模索する。「試行錯誤」の一言でも表現できてしまうのですが、その内容はこれではないかと思うのです。

https://www.folders.jp/t/shisaku.html

関連記事。なお元となったメモは2011年。考え始めたのはもっと前。

もう一つ、「良い選択肢を見つけられるかは、確率である」と仮定してみると、割といろいろなことが説明できる。

ただし、当たり前の話ですが、常に良い選択肢を見つけられるとは限りません。全てがうまく進む完璧な選択肢に出会えることはそうそうなく、多くの場合は出来ること・出来ないことのバランスをみながら妥協して「その時点で最良と思われるものを選ぶ」ことになります。この良い選択肢を見つけられるかは言ってしまうと運であり、うまくいく時はあっさりと見つかりますが、何十回と試行錯誤しても、今ひとつという選択肢しか見つからないケースもあります。一定の確率でとても良い選択肢が存在するはず(と信じたい)なのですが、何度ダイスを振っても目的の目がでないことはあるものです。これを「良い選択肢を見つけられるかは、確率である」と考えてみると、創作におけるいろいろなことが割とうまく説明できるようになります。少なくともなんとなく分かったような気にさせられる程度には、説得力がある解釈になります。

知識や経験は選べる選択肢の広さや質。良い選択肢を選べる確率が上がる。

一定の確率で当たりの選択肢が見つけられるのなら、重要なの確率をなるべくあげることです。ここで知識や経験が役にたちます。
そもそも、知らない技法を使った選択肢は選ぶことができないし、知っていたとしても初めて使うのであれば、その成功率は低いはずです。多くの作品や技法を学び、それを使えるようになることで、良い選択肢を見つけ、進められる確率は大きく上がります。
よく創作に慣れている人が、そこそこの作品を短時間で創ってしまうことがありますが、これは取れる選択肢が桁違いに多く、先を読む能力も高いので試行回数自体が少ないからだと説明できます。単純に当たりだけでなく大当たりの確率も違うと考えると、ダイスを振る回数に大きく差が出そうだいうことがわかるでしょう。なんというか俗な例えになりますが、創作作業ガチャを回すとき、初心者はSSRが0.001%くらい、Rでもやっと1%くらいなのに対し、創作に慣れている人はSSRが0.1%、Rが50%くらい。多分このくらいの差があります。

いわゆる「折り紙設計」は、制限を加えて選択肢を選びやすくする方法。

確率を上げる方法の一つに、ある程度整理・体系化されている創作方法(いわゆる「折り紙設計」)を使うというものがあります。
これを選択肢と確率という面から考えると、「ルールを設け選択肢を限定し、一定以上の質の選択肢を選びやすくする」ということになるでしょうか。うまく使えば、扱いにくい選択肢を除外して、試行回数を大幅に減らすことができます。また、基本形や定石的な構造なども、ある程度のところまではダイスを振らずに進める方法と考えられます。
見方を変えると、ルール外の選択肢を見落としやすくなるということにもなります。つまり外れは減るけれど、大当たりも減るのです。経験上、変則的な構造が最適解というケースは割と多いので、悪い意味でこだわり過ぎない方がよいかもしれません。なお、その変則的な構造もルールに含めることもある程度可能ではあるのですが、そうなると選択肢が多くなり過ぎて、扱いが難しくなります。(具体例:整数比角度系とか)

理屈上では、確率は低いものの、いきなり傑作を創作できる可能性もある。

気がついた方もいるかと思いますが、理屈の上では初めて創作する人が傑作を創る可能性もあります。少ない試行回数・低い確率でいきなり大当たりを引く可能性はゼロではありません。複雑な作品の場合はダイスを何十回も転がすことになるので、いきなり傑作というのはまずないでしょう。ただし、シンプルな作品であれば話は別で、数回のダイスで大当たりが続くことがあってもおかしくはありません。

選んだ選択肢が作品となり、作風やセンス・個性になる。

良い作品を創作するには、もう一つ重要なことがあります。「なにを基準に良い選択肢と判断するか」です。どれだけ選択肢を広げ確率を上げても、選ぶ基準がダメでは良い作品は生まれません。良い選択肢とはなにか、更にいえば良い折り紙作品とは、自分の作りたい形はなにかを考えることで、なぜその選択肢を選ぶかを決めることができるようになるのです。
最終的に選んだ選択肢が作品となり、作者の作風や個性・センスとなります。これは折り紙の技術だけではなく、題材等その他の知識や経験も影響してくるでしょう。
言い換えるならこれは創作中の作品への「批評」であり、多分今回の「選択肢と確率」とは別の、もう一つの創作において重要な話になりそうです。ちゃんと考えて出力すると多分このテキストと同じくらいのボリュームになる。

「良い作品を創作するには確率を上げて試行回数を増やせ」。

以上、創作作業を選択肢と確率として考えてみましたが、予想以上にいろいろなことを、それっぽく説明することができました。
最後にこの考え方から導き出される結論をまとめると、良い作品を創作するには「確率を上げて試行回数を増やせ」そして「作品について考え批評せよ」となります。結局王道はなく、当たり前の結論になるのです。
また、創作初心者・中級者は、基本形や定石的な構造を積極的に利用して、ハズレダイス率を減らしつつ経験値を上げるのが上達の近道なのかもしれません。創作も数をこなせば、ある程度までは上手くなるもので、これは実際辿った創作者も多いと思うし、実例も最低1件知っているので間違いではないはず。

余談となりますが、この考え方だと、よく言われる「創作をしたければ、自作多作含めてとにかくたくさん折れ」は実は根性論とかではなく、割と適切なアドバイスなのかもしれない。


折り図tips:共通のアピアランスを選択

Illustratorには、共通のアピアランス(塗りや線等の設定)のオブジェクトを選択する機能があります。

メニューの「選択」→「共通」→「アピアランス」にあります。

共通の「塗りと線」の場合、山折り線・谷折り線などの鎖線が区別されず選択されてしまいますが、「アピアランス」であれば同じ設定の鎖線等が選択できます。必要に応じて使い分けるとよいでしょう。