「 技術ネタ関連 」一覧

サメのエラの話

元ツイートは「光あれ」のパロディなのですが、せっかくなので。

自分の覚えている範囲だと、『おりがみ新世紀』に掲載されているジョン・モントロール氏のサメには、折り筋で表現されたエラがありました。また『Origami Sea Life』のサメでも、段折りでエラの表現がされています。

余談ですが、モントロール氏は、一定の範囲の技術(=折り図にできるもので、折り紙に慣れていないアメリカ人がなんとか折れるかもと思える範囲)で、様々な題材の作品を創作されています。折るべき形や、要素の取捨選択が優れた作家であると言えるかもしれません。

ラブカなどを含めると他にも作例はありそうだし、冗談ではなく「吉澤さんが50年前にやってる」でもおかしくありません。(覚えている限りでは、吉澤章氏のサメの折り図はなかったと思うのですが、折り図になっていないしっかりエラが折り出された作品があっても不思議ではありません。)

ちなみに私がエラを折り出したのは、自作のエイや吉野氏のマンタなどで、エラは割と効果的なのを知っていたのと、歯よりも低コストで実装できそうだったからです。要するに歯を割愛する代わりにつけた。

ヒダを構造に組み込むと難しくなるけれど、外側にカドを出して段折りであればわりと簡単に実装できること、またサメの特等的なパーツであることが知られたので、最近の作品でエラつきが増えたということなのでしょう。


もみ紙、強制紙の話

「もみ紙」と「強制紙」は、どちらもしわ加工された和紙です。

平面の状態にして正方形を切り出す段階ですでに難しく、折っているとしわが伸びるので正確に折るのも難しいという、上級者向けの紙といえるでしょう。

よく聞かれるのですが、神谷作品では「もみ紙」や「強制紙」もよく使っています。ただ、上記の通り扱いが難しく、簡単に人に勧められる紙ではありません。完成作品を見て紙の種類が分かるくらいの技量と知識があれば、挑戦していただいて問題ないのですが……

ひたすら折りにくいと書いていますが、もちろん利点もあります。まずはしわの加工のおかげで見栄えがいいこと。とても重要です。もう一つは丈夫なことで、基本的に和紙自体が丈夫であることはもちろんなのですが、たとえば厚みがある部分を折るような場合に、ついているしわが伸びることである程度表面の紙にかかる負荷を吸収してくれます。結構な無理もできてしまうのは、大きな利点です。

なお、コツというほどのものではありませんが、正方形の段階で必要な基準点等全てに印をつけて、印を結ぶように折り筋をつけると、少なくともカドの位置関係は比較的正確に折ることができます。後は紙の状態に合わせて随時細かい補正をし続けることでしょうか。なんにしても現物の状態と相談しながら調整することになります。

完成品の見栄えがいい紙と、折りやすい紙、さらには作品に必要な質の紙は、それぞれ違います。

全てを兼ね備えた紙があれば最高なのですが、なかなかぴったりの紙というのは見つからないものです。

作者が使った紙は、当然それを使う理由はあるものの、全ての場合においてベストな紙ではない。そんな話です。


正方形から最大の正五角形を折り出す

正方形に内接する最大の正五角形の折り出し方。多分車輪の再発明。


正方形から正五角形を折り出す場合、一般的に知られているのは少し誤差のある方法です。また正確な正五角形の場合は、伏見康治先生の著書『折り紙の幾何学』に記載されている方法などが知られています(私の知っている中では一番古そうな出典)。実用としては全く問題ないのですが、ふと最大の大きさの正五角形を折り出す場合はどうなるのかと思い考えてみました。

まず、正方形に内接する正五角形は下の図のようになります。

この答え自体は明確なのですが、折り出し方法は意外と難く、正五角形のカドの位置の必要な比率を愚直に折り出すくらいしか思いつきません。 もう少し面白い方法はないかということで、とりあえずカドを結ぶ等の補助線を入れてみます。

眺めていて気がついたのが、対角線と新しく追加した補助線の交点です。補助線上の交点の位置に注目してみるとわかりやすいのですが、この点は補助線と対角線を黄金比(1:(1+√5)/2)で分割した位置になります。

ここまでくればもう出来たも同然(とまずは思っていた)、黄金矩形の対角線と、正方形の対角線の交点として折り出すことができます。

実際の手順は以下のようになります。一切の無駄のない、大変きれいな手順です。

ただし実際に行ってみると、基準点は折り出せたものの、次に折る基準がないことに気がつきます。 せっかくなので最後まで考えてみます。

次に必要なのは正方形の辺から9度傾いた線の折り出しです。方法はいくつかありますが、すでに折り出してある黄金比を利用するのが無駄がなさそうです。ということで、最終的な手順はこちらになります。

というのを見つけた後で前例を探してみたら、BOSのウェブサイトに、第一回折り紙の科学の国際会議の論文集にてMorassi氏が発表されていたという方法が紹介されていました。まず正五角形の対角線の長さを折り出し、それを必要な位置に移すという手順です。

https://britishorigami.info/academic/mathematics/folding-optimal-5-6-polygons/

以上。案外知られていない、実用性は微妙な最大の正五角形の折り出しです。


カモシカ解説

折紙探偵団マガジン181号カモシカの折り図が掲載されました。作品と折り図の解説を簡単に箇条書きで。


なぜカモシカ?

  • 昔折ってみたらどうなるかと考えた事があった。小さい頃に家族と訪れた鈴鹿の日本カモシカセンターでの事。
  • そういえば作例が少ない。
  • それなりに親近感のある題材。日本の動物っていいよね。
  • というような事を、「シカもカモシカもたしかシカだがアシカはたしかシカではない」という早口言葉からふと連想した。まあ切っ掛けなんてそんなものです。


着想と構造等

  • 頭部をカエルの基本形から折ることができそう。ツノの長さとか丁度良さそう。
  • とりあえず外側にヒダを配置して頭部の構造を折り出す。
  • ヒダと内側の22.5度の構造を合わせて前脚の位置と長さ決定。この辺は22.5度の距離感で決めている。
  • 後脚の位置と構造はかなり悩んだが、最終的には効率と尻と尾の折り出しの良さから現在の位置と構造に決定。特に前脚付け根から後脚への沈め折りは会心の一手(手順104)。
  • 頭部は現物(剥製だけれど)と見比べながら試行錯誤した結果、カエルの基本形からツノの位置をずらす構造を採用。目の折り出しに余裕ができた、大きすぎた耳のカドが適度に小さく良い感じの形になるなど、ほぼ全てが良い方向でまとまった。
  • 後脚はいろいろ比較検討した結果、ぐらい要素少なめの形に収まった。また足先についても紙の厚みがうまく分散された。ある程度はどう折っても形にはなる部分で、最善と思われる手を比較検討するのは大切。

手順

  • 6+√2の折り出しはこれまでとは違う方法。より折りやすく使いやすいはず。
  • 25と55の繰り返し感は韻を踏んでいるようで面白い。
  • 61-62で一旦沈めてから戻すのは、折りやすさと100で立体図を描きたくなかったから。難しい手順で一度先に折っておくのはかなり有効。
  • 頭部の手順はちょっとややこしいけれど、構造の制約上、多分これが一番折りやすい。
  • 111、113の折り筋は、つけておくと折りやすさがかなり違う。
  • 134は前の隙間を広げて折る。後ろでも折ることができるけど収まりは悪くなる。
  • 148、カドの先の蹄の部分は、隙間の位置は違うけれど、前後共に厚みの条件は同じ。
  • 153、尾の折りだしとロックを兼ねた手順。個人的にすごく好きな構造。
  • 163他、ツノをずらした最大の利点は耳の形、特にカドの角度が90度になったことだと思う。
  • というような折り図の工夫や意図等を読み取れると、折り図を読むのが少し楽しくなると思う。でも普通しないし相当意識しないと出来ない。

その他

  • 目の部分に裏面が出るので、頭の部分だけ裏打ちして色分けするとよい。
  • 作例は揉み紙。講習では里紙(50cm)を使用。
  • 題材は少し地味だけれど、構造・造形共に作者満足度の高い作品です。ぜひ折ってみてください。


「2+√2:4」 について

比の折り出しスクリプトの検索候補に「4:2+√2」を追加した時に考えていたことです。

6+√2を折り出す場合、おそらく4と2+√2に分けるのがまず間違いなくベストです。どちらも数字自体は難しい比率ではないので、効率や精度を気にしなければ簡単に折り出せます。過去に4:2と2+√2:2の対角線を使っての折り出しも行なっています。ただ、2+√2:4を使うと、対角線上に折り出すことができるので、より使いやすく無駄がなさそうです。

まず、2+√2:2については、とても簡単に折り出すことができます。√2系の比率では、最も折り出しやすいものの一つでしょう。
2+√2:1はこの半分なので、こちらも折り出しは簡単です。

ではこの縦側の2を倍にした「2+√2:4」を使いたい場合は、どのように折り出すのがよいのでしょうか?
折り出し自体は可能なのはすぐに分かるのですが、簡単に折り出す方法があれば使いやすくなるはずです。

今回の基準点折り出し方法は、2+√2を3と(√2)-1に分けて考えます。
√2という数字は、(当たり前ですが)1と(√2)-1に分けることが出来ます。そして(√2)-1は、22.5度の線で簡単に折り出すことができます。

ということで、2+√2を4等分の線3マスと22.5度の線で折り出すと考えます。
1/16の小さな正方形内に22.5度の折り筋をつければ、それで基準点を折り出すことができるのです。

ただ、この手順だと無駄な折り筋が多いので、手順を逆にします。つまり辺を4等分してから22.5度の折り筋をつけるのではなく、先に22.5度の折り筋をつけ、それから4等分することで、ほぼ無駄な折り筋がない状態で2+√2:4の基準点を折り出す事ができました。

同じようにして更に半分の点にすると、8:6+√2の比率も折りだせます。
あまり実用的ではありませんが、もしかしたら使う機会があるかもしれません。

ちなみに、今回は対角線を交差させる比率折り出し方で利用していますが、もちろん他の比率の折り出し方法でも使えます。グリッドを基本としていることを考えると、むしろそっちの方で使った方が便利そう。


創作における「なんとなく」

創作で、「適当・なんとなく」とよく言いますが、実際どのように考えているのか?と疑問に思う人もいるかと思います。答えから言ってしまうと本当に「経験と勘からなんとなく」なのですが、これでは全く参考にならないので、比較的分かりやすそうな「カドの位置」を例にもう少しだけ詳しく考えてみます。

ある程度以上創作などの経験を積むと、「ある形を折り出すのに大体どのくらいの領域が必要なのか」が予測ができるようになります。もちろん完璧ではありませんが、それでもカドの配置や大きさを決めるには十分な情報です。折りたい形から必要な紙の領域と、さらにその情報を元にして大体のカドの位置などを予測し、その付近から使い易そうな比率や位置を選ぶ。実際にどこまで意識しているかはともかくとして、これがカド配置のケースの「なんとなく」の中身ではないかと思うのです。少なくとも自分の判断基準はそうであるとしか思えない。

さて、この考え方自体それなりにロジカルであると思うのです。ただ、これをだれでもできるかといわれると、恐らく難しい。そもそも前提として「知識や経験を元にした予測」なので、一定以上の知識や経験が必要になります。これに限らず、創作の技術や判断は本当に細かい技術や知識の集合体で、「知識と経験や、それに基づく勘」の割合が大きいものが多く、個別のケースであればある程度の説明はできるのですが、体系化は難しいのではないかと思うのです。

そして、そういった方法を使いたいのであれば、沢山折ってまず知識と経験を蓄えようという話になります。よく、創作をしたいという人への経験者からのアドバイスとして「いろいろな作品を折れ」と常に言われるのは、これが理由の一つなのではないのでしょうか。


6-√2とマイナスの数値の折り出し

いつもの比の折り出しの話。

1+√2 : 4-2√2 : 1
=6-√2。多分折った事のない比率だ。
この手の場合は一辺の長さに対して1を折り出してから、1+√2を出すのがよさそうです。

このケースでは4と2-√2に分けるのが恐らく最適解。
意外に思われるかもしれませんが、2-√2はとても折り出しやすい長さです。22.5度の線1本で折り出す事ができます。

という事で折り出し手順。


ポイントは2-√2の折り出しで、見て分かるとおり、2も√2も折り出す必要がありません。
最後に1の幅から22.5度の線で1+√2を折り出せば、完了です。

 


 

さて、実はここまでは前置きで(ほぼ最適解であろう答えは出ているのだけれど)、ここからが本題。

もう1つ。6と-√2に分ける場合を考えてみます。
問題は-√2という数値を折り出す事ができるのか?という点なのですが……あまり実用性はないけれど、可能なのです。

今回使っている折り出し方の場合、カドから2本の線が交差するように内側に向けて基準線をつけるのですが、それを反対側……つまり外側にむけてやるとマイナスの数値を折り出す事ができます。

ただし、紙の外側に折り筋をつけることはできないので、実際には半分の長さなどで折るのがよいでしょう。
分かりやすい例として、3等分の方法を見てみましょう。分割方法は4と-1です。
という事で折り手順はこのようになります。なお実用性はあまりない。この方法が使われている・紹介されているのを私は知りません。

では本番。6と-√2の場合の折り手順です。折り出しやすさの都合上、6:2(=3:1)と-√2:2で折り出しています。

 


 

以上、よく考えてみれば当たり前のマイナスの数値の折り出し方法です。活用できるケースは限られているかと思いますが、いざ必要な場合にはとても便利そうです。

 


折紙探偵団マガジン115号(20期)クローズアップ「22.5度系の比の折り出し」(神谷哲史)

※比の折り出し方法等の解説です。合わせてご覧下さい。


15+4√2

今更ながらいつもの。本人がいたのに話し忘れていた。

比の折り出しの基本は、2つの「折り出しやすい数字」に分けることです。折り出しやすい数字とはという問題はありますが、今回の場合、4√2側に8を移して(つまり4(2+√2)だ)、7:8+4√2に分けることができます。
ということで折り出し方法を2種類。
まずは7:8と8+4√2:8(=2:2+√2)の2つの長方形の対角線を折り出す方法。
それぞれの数字に2の累乗数の「8」を組み合わせることで、折り出しやすい比率になっています。
もう一つ。1辺を8+4√2として、対応する7を折り出す方法。つける折り筋も少なく、対角線上に折り出せるので使いやすそうです。
どちらの方法も、7の側の位置は比較的簡単に変更できるので、同じような方法で「13+4√2」や「11+4√2」なども折り出せます。

おおさんしょううおの比率とその折り出し方

折紙探偵団マガジン167号に掲載された豊村高志さんのおおさんしょううお、記事では折り出しやすい近似値を利用していますが、実際はどのような比率なのでしょうか? またどのように折り出せばいいのでしょうか?

※実際に折る時には問題にはならない程度ですが、小さなズレがあります。

比率を求める

複雑な比率を計る時は、縦横に基準線を加えると分かりやすくなります。
ぜひマガジンの展開図と比べてみて下さい。

内側の部分で数字を取り出します。中略。結果、脚のカドになる点の両側は、
4+2√2:2.5+2√2
となります。2.5ってなんだよ。

数値の約分

0.5を扱い易くするためにまず2倍にします。
8+4√2:5+4√2
それにしても数字が大きい。もう少し分かりやすい数字にできないでしょうか?

ここで利用するのが、「1+√2:2+√2 = 1:√2」。

ということで、それぞれ1+√2で割ります。つまり、
4(2+√2):3(1+√2)+(2+√2)
=4√2:3+√2
かなりシンプルな数字になりました。

折り出し

とりあえず、合計して1辺全体の長さを求めます。
3+5√2
いろいろな可能性が考えられますが、今回については2√2と3+3√2に分けて折り出すのがよさそうです。折り出したい点との相性もいいし。
次、考えやすさののため、全部√2倍します。(必然ではありませんが、√が少ない方が分かりやすいという程度の理由です。)
2√2:3+3√2
=4:6+3√2
折り出しやすそうな数字になってきました。
3√2の「3」をどのように折り出すかだけが問題ですが、今回は4:3の長方形を利用して折り出します。
それぞれの比率を横幅、縦幅を3とすると、折り出しに必要な長方形は「4:3」と「3(2+√2):3 = 2+√2:1」で、どちらも簡単に折り出せる比率です。

折り手順

実際の折り手順は以下のようになります。顎になる点が折り出せますね。

以上、使った事のない比率だったので考えてみました。


ヒダと22.5度構造

こんな感じのカドに横向きのヒダを入れたい。半分諦めながらいろいろと試した結果……

きれいにまとまった。素晴らしい。

経験則として、「周りの構造の条件に無理が無ければ、大抵きれいな折り畳み方の解が存在する」と考えているのだけど、今回のケースは当てはまるようだ。