創作tips:カドの長さと構造

展開図のわかりやすさ・美しさを重視する場合、基本的に「カドの長さ=構造」となります。当たり前の話ですが、使う構造でカドの長さが決まります。実際には逆に必要なカドの長さに合わせて構造を選択することになるでしょう。

22.5度系でのカドの長さ(折り返す位置)は図のようになります。正確には無数にありますが、代表的なものを描いてあります。この位置やバランスを覚えておくといろいろと便利です。できれば22.5度の距離感として叩き込んでおくとよい。

それぞれのカドの長さに対応する代表的な構造は以下の図のようになります。22.5度の場合は、二等辺三角形状の分子でカドの長さが決まることが多いので、キーとなる分子の大きさを意識して構造を選ぶとよいでしょう。


創作tips:4鶴の変形

4鶴は拡張性の高い便利な基礎構造ですが、得られるカドの長さや間隔が全て同じなので、カドの長さを持て余したり、バランスが合わない場合もあります。 そこで4鶴を構成する構造のバランスを変える事で、より無駄なく必要な大きさのカドを得ることができます。

まずは対角線上の2つの基本形のバランスを変えた場合。両側の部分は長方形になります。カドの間の領域を胴体として翼を持つ空想動物などに使えます。

次に基本形が重なるように変形させた場合。カドの間隔を利用し、昆虫作品で左右の部分を脚として使うなどが考えられます。

両方同時に行うこともできます。ここまで変形させると4鶴感はあまり残っていません。

今回は4鶴を例にしていますが、他の構造も同じように変形が可能です。基礎構造のバランス変更の利点は、なにより必要な長さのカドが無駄なく得られることです。逆に汎用性が低下し扱いづらくなること、比率や手順の複雑化などが短所となります。なるべくシンプルな構造を優先し、必要があれば変形・融合などを行うのがよいでしょう。


創作tips:ハバ作品化

「ハバ作品」とは、作品の対称軸に隙間を追加することで、立体化等の効果を得る技法です。正式名称は私の知る限りないのですが、だれともなく呼び始めた「ハバ作品」が通称となっています。

第8回折紙探偵団関西コンベンションにて、田中将司氏のアイディアを若手作家らが面白がっていろいろな作品を「ハバ化」して広まりました。(折紙探偵団マガジン103号、ハバリータ・はばはばたくとり)

余談ですが、この時作られた作品は伝承作品が中心だが、ハバ悪魔やハバムートなどバカバカしいものも多くとても面白かった。

この技法を積極的に使っているのは川畑文昭氏で、乳牛(折紙探偵団マガジン112号)やポニー3Dモデル(川畑文昭折り紙作品集ほか)などの作例があります。

また、立体化以外の効果としては、中心に隙間を作ることで紙の厚みによる紙への負荷を緩和させることができます。作例としてはヒツジで厚み対策としてハバ化を採用しています。

既成の作品を立体化したり、対角線への領域の追加と組み合わせて使ったりと、いろいろ活用方法がありそうな楽しい技法です。


創作tips:よく使われる定石構造

折り紙の創作では、よく使われる定石的な構造があります。良くも悪くも「枯れた」構造なので、新奇性はありませんが、汎用性のある優れた構造であることも事実です。22.5度系でよく使われる構造を紹介します。

「鶴の基本形」。当たり前だが、4つの大きなカドを折り出したい時には最適な構造となることが多い。シンプルイズベスト。

作例:チョコボ

「カエル(あやめ)の基本形」。中心に大きなカドがあるので、これをどう使うかがポイントとなる。一般的には尾のカドとして使われることが多いが、吉野一生氏の虎のように頭として使われるケースもある。

作例:

いわゆる「4鶴」。円配置で考えると、カエルの基本形とはバランスを変えたもの同士となる。紙の周辺から8個のカドが折り出せるので、翼のある空想動物でよく使われる。さらに発展させてカエル4個や9鶴等もそれなりに使われてるが今回は割愛。

作例:バハムート零式有翼の麒麟ホネガイ

紙の周辺から6個のカドを折り出す構造。『ビバ! おりがみ』の前川淳さんのカンガルーや、西川誠司さんのトラなどが代表的な作例。
作例:アルドゥインレッド13ベヒーモス

こちらも6個のカドを折り出す動物向けだが、対称軸が異なる場合の構造。伝承のブタ系の構造と考えることができる(参考:目黒氏のサイトより「チヂミブタ属」)。

いわゆる「鶴ドラゴン」。カエルの基本形や4鶴等と比べると、中心のカドがない分効率は良いが、一部のカドを内部から折り出すことになる。

紙の中心から4つのカドを折り出す構造。カドの位置を考えると座布団鶴ドラゴンだが、性質的には9鶴の方が近いかもしれない。たくさんのカドを折り出しやすく、自由度が高いので、紙の内部から複数のカドを折り出す時にはこの構造をベースに考えるとやりやすい。

作例:ディバインドラゴン

以上、比較的使用される率が高そうな7種です。ここからヒダを追加や比率等の変形を行うことで、大抵の題材に必要なカドを折り出すことができるでしょう。


創作tips:ヒダの幅を22.5度の構造と合わせる

ヒダを追加する場合、幅をその他の構造と合わせるとよい。

主な利点は、比率がきれいになるのと、ヒダの接続・融合がやりやすくなること。逆にデメリットは比率の折り出しが面倒になるケースもあることだろうか。

下の図は鶴の基本形にヒダを追加した例。分子の高さ(内心円)と同じ幅でヒダを追加している。

カエルの基本形の場合はこんな感じ。

他の構造との接続はたくさんの作品で行なっているが、比較的わかりやすい例として「ウィザード」を挙げる。上記のカエルの基本形の例と同じように周りにヒダを追加しているが、右上の部分で、内部の二等辺三角形と外側のヒダを接続している。

比率の測り方(?)や折り出しについては、折紙探偵団マガジン115号で記事を書いているのでぜひご覧ください。

https://origami.jp/magazine/115/

また、比率の折り出し方は毎回考えるのが大変なので、折り出し検索プログラムを作りました。HTML+javascriptでブラウザ上で動きます。

https://www.folders.jp/reference/reference.html


創作tips:ヒダを半マスずらす

一般的な蛇腹のヒダを半マスずらす方法。とりあえず、ずらす前。

半マス上へずらしたところ。直角二等辺三角形状の構造が、回転しているような形になる。

半マス下へずらしたところ。こちらも直角二等辺三角形が回転している。

同じようにして、ヒダを2つに分けることもできる。

なぜ二等辺三角形(45度)が現れるのかは、川崎定理を考えるとわかりやすいかも。ちなみに、記事では半マスとしているが、実は位置は任意でずらすことが可能。


創作tips:領域の追加

用紙のカドに対する領域の追加について。頭部などの作り込み・装飾や、指の折り出し等に使われる。

フチへの追加

カドの外側にヒダを追加する方法。多分一番使いやすい。ヒダはそのまま指などに活用できると無駄がない。(アルドゥインウィザードフェニックス

対称軸への追加

中心の対称軸に追加する方法。紙の内部にヒダが追加されるので、厚みが出やすいので注意。周りの構造と合わせて同化・吸収してしまうのもよい。(麒麟エンシェントドラゴン

その他の角度での追加

利用される頻度は少ないけれど、覚えておくと使える局面は割と多くて、特に指の折り出しに便利。しずめ折りするようなかたちでヒダを作ると使いやすい。

使い分けの判断基準

当たり前ではあるが「必要なカドが得られるか」が最重要。その上で、追加したヒダが無駄なく使えるのがベスト。「フチへの追加」の場合は対象軸に余裕があり、逆に「対象軸への追加」の場合は外側にカドが作りやすいので、使い分けの判断材料となる。

多重化

構造は複雑になるが、複数のヒダを追加することも可能。可能な限り幅を揃えておくと使いやすい。下の例では外側のヒダでアゴなどを作り、それに追加して対象軸のヒダでキバを折り出すというようなことができる。(フォルネウス



創作tips:ヒダの折り出しの幅は割と自由度が高い

指等を折り出すためにヒダを作る構造。よく利用されているお馴染みのものだが、実はヒダの幅は等分でなくてもよい。それどころか恐ろしく自由度が高い。

下図は√2:1に分けた例。22.5度系で便利な局面がわりとある。(ユニコーン2.0

2以上のヒダにすることも可能。下の例は幅4:3:2:1のもの。

指等のカドの折り出しの他にも、模様として使うことも可能。(例:アルドゥインの首の部分)


超難解作品と超難解折り図は別物である

良い機会なので整理。

  • 超難解作品と超難解折り図は別物。
  • 手順は重要。超重要。
  • 折り図にかける手間は折り図の対象によって決めると良いと思う。
  • 折り紙のパズル的な面白さを求めるならば、折り図ではなく展開図の方が向いているように思う。『季刊をる』での前川さんの綴じ込み展開図がとても良い例。

以下詳しく。

折り図を見て折る際の「難しさ」はいくつかの要素に分けることができる。
(1)作品の複雑さ
(2)手順の難度(折りやすさ)
(3)折り図の分かりやすさ
はそれぞれ別の要素で、全部合わせて折る時の「難しさ」になる。

(1)「作品の複雑さ」は手順等ではなく作品自体の複雑さ。複雑な作品が難しいとは限らないが、折り図の長さについては大抵は比例する。 「難しさ」をアピールするならこれを前面に出すのが多分正解。というか他の二つの難しさはあまり褒め言葉にならない。

(2)「手順の難度」は「折りやすさ」や「折る楽しさ」に直結する。また、講習等で教える場合でも重要。本当に重要なのだけれど、そもそも比較する機会がほとんどないこともあり、あまり認識されていないように思う。なるべく幅広い手順を比較検討してよりよいものを選びたい。

展開図で折るのが難しかった作品が、折り図ではスムーズに折れたというような場合、この折りやすい手順が工夫されていると考えてよい。 個人的な具体例を挙げると小松さんのカバで、山谷なしの展開図折りは難しかった。折り図の手順側については実際折った人なら説明は不要だろう。

(3)「折り図の分かりやすさ」は折り図自体の見やすさや、重なりなどの表現の分かりやすさ。 省エネ折り図の場合でも、正確に折るために最低限の情報は描く必要があると思う。基準は難しいけれど、「何を(what)」「どこに(where)」「どうやって(how)」 折るかは明確であってほしい。
例:「手前のカドを(what)すぐ後ろの隙間で(where)中わり折り(how)」を図なりネームなりで表す。

折り図というのはとにかく手間と時間がかかる。個人的には(3)は場合によっては手を抜いてもいいけれど、(2)はしっかり行うべきであると考えている。折り手順は折り紙屋にしかできない仕事であり責任です。大切なことなので何度でも言おう。手順は重要。

(3)はどこまで手間をかけるかの問題だけれど、基本的には想定する対象者のレベル(折り図読解力とでもいうのかな)に合わせることになる。簡単な作品や一般向けの折り図は丁寧に分かりやすく、たとえば内輪や自分用の記録のような対象が限定される場合であれば最低限でもいいのかもしれない。

最後に。どんな折り図であっても、まず折り図が描かれている時点で、その事自体は評価したい。多少わかりにくい折り図であっても、有ると無いとでは大違いのはず。(ない方がマシという酷い折り図はそうそうない。)