思いついてしまった作品

ネタ系作品でよく「思いついてしまった」という表現を使っていますが、これは揶揄とかではなく本当に文字通りの意味で、創作しようと考えていなくても、「折れる」と思いついてしまうことがあるのです。

いってしまうと一種の職業病なのですが、どうも私は、見ているものに対して「折り紙で折ったらどうなるか?」ということを常に頭の片隅で考えているようなのです。そしてたまに、意識していなくても勝手に構造等を思いついてしまう。できそうだとわかったら、確認してみないとすっきりしないので、実際に折ってみる。その結果が「思いついてしまった」作品になります。

ちなみに、上手くいってもダメでも、結果が分かった段階で満足してしまう事が多いので、確認のためだけに折った折りゴミの方もたくさんあります。


展開図折り基礎体力トレーニング

展開図折りについて、個人的に効果的なのでは?と思う練習方法で、なんとなく考えていた事を少し整理したものです。実際に効果があるかどうかは不明、といってしまうと身も蓋もないですが、少なくとも私は(いつの間にか)できるようになったという実績があります。 実際に試して見るのはもちろん、話のネタなどにご利用ください。

  • 提案するのは作品個別の事例ではなく、基礎体力の鍛え方。
  • 多分実践こそが一番効果的。理論と同時がベスト。理論だけはあまり意味がない。
  • 練習方法は、折り図を見て折ったものを、広げて再度畳む練習を繰り返す。
  • そこから展開図を描く。
  • さらに、描いた展開図から作品を複製する。
  • これで基礎体力が相当鍛えられるはず。

以下詳細。

そもそも、展開図は基本的な構造を伝えるための図であり、折り方を説明する図ではありません。 折り図と展開図を強引にたとえるなら、詳しい道案内にそって目的地に向かうのと、住所だけ渡されるくらいの差があります。つまり展開図折りでは、目的地の位置の確認・交通手段の選択、道順など、……言い換えると、どのように折り筋をつけるのか、またどのように折り畳んでいくのかなどを、折り手が考えなければいけないのです。また、展開図によっては、そもそも手順にできないケースもあり、展開図折りで手順に頼るのは限界があります。 と言うことで強引にまとめると、「手順に依存しない折り畳み」が、展開図折りに必要な技術なのです。

ではこれらはどうやって身につければ良いのでしょうか? 折り図を見ながら折るだけでも身につけられる部分はありますが、よほど意識して学ばない限りそれだけでは十分とは言えません。
そこで練習方法の提案として、いきなり展開図までジャンプせずに、まずは折り図で折ったものを利用して、そこから一歩進んで鍛えるのはどうでしょうか?  折り図からいきなり展開図から折ろうとするところに無理があるのです。折り図と展開図の中間を埋めて、少しづつ出来ることを増やそう。

具体的な練習方法として、まず折り図を見て折ったものを、すべて広げて正方形までもどして、それをもう一度畳んでみましょう。当然ですが、この時には折り図を見てはいけません。むしろ折り図の手順は頑張って忘れてください。なるべく手元の紙だけを使って行います。これは「折り線がついている状態から折り畳む」練習とでも言えばいいのでしょうか。鍛えられる事は、問題の「手順に依存しない折り畳み」はもちろんですが、それ以外にも

  • 構造と仕上がりの形の関連
  • 構造の理解
  • 紙の動きの理解
  • 目的とする形を得るための試行錯誤
  • 紙の折り畳み方法の定石や法則

などが挙げられます。どれも、展開図折りには必要不可欠なスキルです。

次に、広げた作品を元にして展開図を描いてみましょう。折りたたみに必要な線・使わない線の見分けや、構造や作品自体への理解はもちろん、なによりも実際に展開図を描いてみることで、展開図に関するほぼすべての事への理解が深まります。 方法は、広げたり畳んだりしている紙に書き込んでいくのがよいでしょう。折り線の凹凸があるので、サインペンなどが使いやすくおすすめです。赤黒2色で山谷を区別するなど工夫してみましょう。

最後に、上記の広げたり折りたたんだりした作品を、その現物と描き起こした展開図のみをつかって複製します。折り出しの方法や、線をつける順番などを考えて行わなければいけません。また、次の折り畳む段階でも、一度折りたたまれている紙と、そうでない紙では感覚や難度がけっこう違うものです。

これをなるべく多くの作品で行います。出来れば折り方をよく覚えていない、少し前に折ったものを使うとより効果的だと思います。また、コンベンションなどの教室で教わった作品など、折り図の存在しない作品の複製で行うのも緊張感があってよいでしょう。

なおこの方法は恐らく近道ではありません。しかしどんな作品にでも対応できる展開図折りの基礎体力をつけることができる……はずです。自分以外の事例を知らないので、効果は保証できないけれど、実際に行った人間が言うのだから、きっと大間違いではないと思います。

さらに、これらの練習で得られる技術や経験は、創作する時に役立つものばかりです。創作をするのに展開図折りが出来る事は必須ではありませんが、複雑な作品を創作したいのであれば、展開図に慣れておく事は決して無駄にはならないはずです。


「ゲーミングα」

タイトル:「ゲーミング-α」
創作・制作:神谷哲史
2020/07創作

七色に輝くゲーミング折り紙があったら面白いのではという馬鹿話から、現実的なのはユニット作品で、シンプルな黒い立体のすき間に色が見えるようなものでどうだろうか?と考え創作。ネタ作品のはずだったのに割と出来が良い。

構造はシンプルなのでほぼ同じ作例があるかもしれません。ただ、もし前例があっても隙間はないと思う。いわゆる薗部ユニットよりも一回り大きくなります。作例は黒い折り紙の裏側にマーカーで色をつけています。ネタ抜きで折るなら、赤茶色等のレンガをイメージした色で折ると一般受けするのではないでしょうか。

折り筋を変えて向きを変えたものが「ゲーミングβ」の予定。


このユニット作品は鶏がらスープである

折り紙とはあまり関係ない話。

「鶏肋」という故事成語があります。鶏肋とは要するに鶏ガラのことで、煮込めば良い出汁が出るが腹は膨れない。捨てるには惜しいがあまり役に立たないものを指す言葉です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B6%8F%E8%82%8B

次に正方形を切り出した後に残る、細長い紙の切れ端。そのまま捨てるには惜しい気もするが、十分な大きさの正方形は切り出せない。まさに鶏肋ではないでしょうか。 そのようなわけで、私はこの切れ端を鶏肋と呼び惜しみつつもの処分をしています。

さて、タイトルの言葉「このユニット作品は鶏がらスープである」に戻ります。 折り紙では、時に鶏肉ではなく鶏がらスープが欲しい時もあるのです。細長い用紙を利用して折るユニット作品。これこそが鶏肋から作った鶏がらスープなのです。 私が教室の残りの鶏がらとか言い出した時は、紙の切れ端を利用して作品を作ったと考えていただければ幸いです。


カモシカ解説

折紙探偵団マガジン181号カモシカの折り図が掲載されました。作品と折り図の解説を簡単に箇条書きで。


なぜカモシカ?

  • 昔折ってみたらどうなるかと考えた事があった。小さい頃に家族と訪れた鈴鹿の日本カモシカセンターでの事。
  • そういえば作例が少ない。
  • それなりに親近感のある題材。日本の動物っていいよね。
  • というような事を、「シカもカモシカもたしかシカだがアシカはたしかシカではない」という早口言葉からふと連想した。まあ切っ掛けなんてそんなものです。


着想と構造等

  • 頭部をカエルの基本形から折ることができそう。ツノの長さとか丁度良さそう。
  • とりあえず外側にヒダを配置して頭部の構造を折り出す。
  • ヒダと内側の22.5度の構造を合わせて前脚の位置と長さ決定。この辺は22.5度の距離感で決めている。
  • 後脚の位置と構造はかなり悩んだが、最終的には効率と尻と尾の折り出しの良さから現在の位置と構造に決定。特に前脚付け根から後脚への沈め折りは会心の一手(手順104)。
  • 頭部は現物(剥製だけれど)と見比べながら試行錯誤した結果、カエルの基本形からツノの位置をずらす構造を採用。目の折り出しに余裕ができた、大きすぎた耳のカドが適度に小さく良い感じの形になるなど、ほぼ全てが良い方向でまとまった。
  • 後脚はいろいろ比較検討した結果、ぐらい要素少なめの形に収まった。また足先についても紙の厚みがうまく分散された。ある程度はどう折っても形にはなる部分で、最善と思われる手を比較検討するのは大切。

手順

  • 6+√2の折り出しはこれまでとは違う方法。より折りやすく使いやすいはず。
  • 25と55の繰り返し感は韻を踏んでいるようで面白い。
  • 61-62で一旦沈めてから戻すのは、折りやすさと100で立体図を描きたくなかったから。難しい手順で一度先に折っておくのはかなり有効。
  • 頭部の手順はちょっとややこしいけれど、構造の制約上、多分これが一番折りやすい。
  • 111、113の折り筋は、つけておくと折りやすさがかなり違う。
  • 134は前の隙間を広げて折る。後ろでも折ることができるけど収まりは悪くなる。
  • 148、カドの先の蹄の部分は、隙間の位置は違うけれど、前後共に厚みの条件は同じ。
  • 153、尾の折りだしとロックを兼ねた手順。個人的にすごく好きな構造。
  • 163他、ツノをずらした最大の利点は耳の形、特にカドの角度が90度になったことだと思う。
  • というような折り図の工夫や意図等を読み取れると、折り図を読むのが少し楽しくなると思う。でも普通しないし相当意識しないと出来ない。

その他

  • 目の部分に裏面が出るので、頭の部分だけ裏打ちして色分けするとよい。
  • 作例は揉み紙。講習では里紙(50cm)を使用。
  • 題材は少し地味だけれど、構造・造形共に作者満足度の高い作品です。ぜひ折ってみてください。


「2+√2:4」 について

比の折り出しスクリプトの検索候補に「4:2+√2」を追加した時に考えていたことです。

6+√2を折り出す場合、おそらく4と2+√2に分けるのがまず間違いなくベストです。どちらも数字自体は難しい比率ではないので、効率や精度を気にしなければ簡単に折り出せます。過去に4:2と2+√2:2の対角線を使っての折り出しも行なっています。ただ、2+√2:4を使うと、対角線上に折り出すことができるので、より使いやすく無駄がなさそうです。

まず、2+√2:2については、とても簡単に折り出すことができます。√2系の比率では、最も折り出しやすいものの一つでしょう。
2+√2:1はこの半分なので、こちらも折り出しは簡単です。

ではこの縦側の2を倍にした「2+√2:4」を使いたい場合は、どのように折り出すのがよいのでしょうか?
折り出し自体は可能なのはすぐに分かるのですが、簡単に折り出す方法があれば使いやすくなるはずです。

今回の基準点折り出し方法は、2+√2を3と(√2)-1に分けて考えます。
√2という数字は、(当たり前ですが)1と(√2)-1に分けることが出来ます。そして(√2)-1は、22.5度の線で簡単に折り出すことができます。

ということで、2+√2を4等分の線3マスと22.5度の線で折り出すと考えます。
1/16の小さな正方形内に22.5度の折り筋をつければ、それで基準点を折り出すことができるのです。

ただ、この手順だと無駄な折り筋が多いので、手順を逆にします。つまり辺を4等分してから22.5度の折り筋をつけるのではなく、先に22.5度の折り筋をつけ、それから4等分することで、ほぼ無駄な折り筋がない状態で2+√2:4の基準点を折り出す事ができました。

同じようにして更に半分の点にすると、8:6+√2の比率も折りだせます。
あまり実用的ではありませんが、もしかしたら使う機会があるかもしれません。

ちなみに、今回は対角線を交差させる比率折り出し方で利用していますが、もちろん他の比率の折り出し方法でも使えます。グリッドを基本としていることを考えると、むしろそっちの方で使った方が便利そう。


アクリル棒の受け側キャップにアウターワイヤーのエンドが使える

タイトルでだいたい言い切った。

展示の時の台として、5mmのアクリル棒を使っていますが、これをどのようにして作品と固定するかの、画期的な解決方法。

そのままだと紙に負担がかかり穴が開く場合もあるので、アクリル棒を受けるキャップのようなものを作品に埋め込んで固定するのはどうかという案が浮かび、キャップに使えそうなものを物色。工具箱に転がっていた自転車のブレーキのアウターが同じくらいの太さではないかと思いつき、試してみたところぴったり。
安価で精度が良く、比較的入手もしやすい。余分があってもそのうち使うので困らない(人による)と、ほぼ完璧な品です。

ただし100個は流石に多い。場所をとるものではないけれど、使い切るにはしばらくかかりそう。


折り紙作品の扱いについて

まずは前提としていくつか。

  • 以下の内容は当事者(作者側)としての認識です。一応いろいろ調べているつもりではありますが、神谷は法律の専門家ではありません。
  • 「折り紙の折り方」に著作権があるかは、著作権法に折り紙について書かれていない、かつ具体的な判例もないので、恐らく現状は「わからない」が適切です。白黒ついていない、文字通りグレーの状態です。調べてみた限りでは専門家でも判断は分かれるようですが、概ね「判例はないが著作物であってもおかしくない」という答えになるようです。
  • 現状主要な折り紙団体や作家・愛好家は著作物であることを前提にして折り方を扱っています。また私個人も著作物であるべきと考え、行動・判断しています。(作者名を明記する習慣とか、「〇〇さんの作品」という言い方とか。)

その上で、よく話題になる2点について。

・折り方の動画の扱いについて

「作品の全ての折り方を公開することはお止め下さい。例外として折り方の一部(具体的には5ステップ程度)の場合に限り可とします。 」
「無断で新しく折り図等を制作・公開することはお止め下さい(折り図や映像等含めて上記の「折り方」に含むと考えます)。折り方の一部に関しても上記と同じ扱いとします。 」

https://www.folders.jp/t/copy.html

端的に言えば「本の内容と競合するものは不可」です。
具体的には、
・一部だけ(難しい部分の解説等)は可
・全体早送りも可
・全部の折り方が分かるものは不可
です。

・個人が折った神谷作品の販売について

これは明記していなかったのですが、少なくとも問い合わせに対して許可は出していません。
公式回答としては、
「個人が折った神谷作品の、販売はおやめ下さい。例外として、親しい人間同士による内輪で実費程度での譲渡は可とします(というかそもそも問題にできない)。」
となります。
※ちなみにこのケースについては、「折り方」が著作物かどうかに関わらず、「実際に神谷が折った物」(これは著作物)の複製の販売であるという見方もできます。ただし「下手すぎて同一のものと判断されない」という可能性が……

なお、35万のご予算があれば、本人が製作依頼を受けることも十分可能な金額ですので、希望される方はご一報ください。

最後に、これは当たり前の話なのだけれど、ちゃんと認識されていないかもしれないので。
現状グレーであるにしても、作者がやめてほしいとしていることを、注意等を意図的に無視して続けるのであれば、少なくとも作者本人や関係者からの信用や評判などは、ゼロどころか回復不可能なレベルでマイナスになります。ご了承ください。


イケア効果と自作品評価

まあ、タイトルで大体内容は想像できる内容で、試作の魅力とも関連する話。

「イケア効果」といわれるものがあります。「自分で組み立てた家具は、苦労した思いや愛着の影響で高い価値をつける傾向がある」というようなものなのですが、これは当然折り紙にも当てはまります。自分で折った折り紙と他人が折った折り紙、同じ折り方、同じ作品、同じような出来映えでも、自作のもののほうが価値があると思うのは、不思議な事ではありません。ただしこの付加価値は「自分にとっては」というところがポイントで、他人の評価には関係がないのです。

さて、既成の作品を折るだけでも効果がありそうなのですが、これが創作作品となるとその効果はより大きくなります。下手すると凡作を傑作に変えてしまうくらいの効果はありそうです。自身の作品に愛着を持つこと自体は悪い事ではなく、より良い作品を創るのには必要なものでもあります。ただそれと作品の絶対的な評価は別なのです。

という事で、自分の作品を客観的に評価するのは難しく、どうしても甘くなりがちなので、実際は2段階ぐらい低めに考えておくくらいが丁度いいのではないでしょうか。